君は生きて

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 それから数日……といってもここには時間を確認できるものがないから感覚でだけれど。  未だに僕達は答えを決めれずにいた。いや、殺すことを了承できない、と言った方が正しいか。 「ねぇ……僕を殺して?」  彼女は答えない。 「たとえここで僕が君を殺して生きたとしても……あの世界に僕の居場所はないんだ」  僕の両親は事故で死んでしまっている。親戚の人は僕を厄介者としか思っていないだろう。だからここで僕が生き残る意味なんて、ない。 「嫌だよ……! 私は自分の好きな人を殺すことなんて、できないよ」  僕自身、酷なことをお願いしてると思う。でも、僕の命で君が助かるならそれでいいんだ。  それに……僕が君を殺すなんて、君に殺されるよりも嫌なことだから。 「……君は僕とは違うだろう?」  両親がいて、愛されてる。学校の友達だってたくさんいる。これから僕よりも素敵な人にだって会えるだろう。  対して僕は、両親もおらず親戚の家をたらい回しにされている。学校でも一人でいることが多い。  生きる価値があるのはどっちか、明確だ。 「違わないよ……!」 「違うんだよ」 「……なんで、そんなこと」  僕は何があっても引き下がらない。 「……僕はね、君に出会えて本当によかったと思ってる。初めて僕に居場所をくれた」  君に出会えて僕は初めて楽しいと思えたんだ。生きようと思えたし、君と過ごす日々はとても楽しかった。この言葉に嘘偽りはない。  ただ一つ思うのは、本当はもっと君と一緒に過ごしたかった……なんて。 「でも、私は……」  なおも食い下がろうとする君の言葉を遮って、僕は言う。さっきの願いを飲み込んで違う言葉を口にする。 「だから、君に殺されるなら構わないんだ。君は……生きてよ」  そう言って僕はナイフを差し出す。イメージして作り出したナイフを。  そして彼女の手に握らせる。彼女の大きな目から溢れ出しそうになっている涙を拭って。
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