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私はだんだんと濃くなっていく赤い痣から目を離せなくなりました。
そして痣が濃くなるたび、私の手を掴んでいる女の手の力も、強くなっていくのです。
生暖かい空気が重苦しく私の肩にのしかかってきました。きついバニラの香りが頭の後ろから、漂ってきます。まるで女が後ろから抱きついて、私の顔をのぞきこんでいるようでした。
右へ左へ。
私はまたアクセルを踏みこむ足に、力を入れていたようです。体が振り子のように、カーブを曲がるたびに引っ張られます。
もうすぐ登り坂が終わるという頃、私の右手にも女の手がスルスル伸びてきました。
肘から腕、腕から手首…。
女の手は、か細くしなやかでした。
振り払おうと思えば、出来そうに思えました。私はちょっと身動きしました。
優しく触れていた女の右手が、私の腕からズルリと滑り落ちそうになりました。
その途端、グッと女の指に力が入り、私の腕をギュッと掴んだのです。
まるでどこかからか落ちそうにでもなったように、必死の様子で掴まってきました。
「ひっ、痛いっ!」
私はハンドルをギュッと握って耐えました。
しばらくすると、女の右手は力を抜き、ソロソロと動き始め、私の指に自分の指を差し入れ、上から握ってきました。
私の右手も左手も、女の手で押さえつけられたかっこうになりました。
(逃げられない…。)
車は坂を下り始めました。もともと速かったスピードはますます速くなり、私は怖くなってブレーキを踏もうとしました。
けれど足が動かないのです。
私はまっ青になりました。必死でハンドルを右に、左に、クルクルと切りました。
女の楽しげな笑い声が耳元で聞こえました。
スピードはどんどんあがり、私はもうダメだ、道からはずれて、山から落っこちてしまう!
と思いました。
その時、砂で出来た待避所が目に飛び込んできました。
ドンッ!
待避所に突っ込んでやっと車を停めたものの、ものすごいスピードが出ていたので、私の体はシートベルトに食い込み、衝撃で私は意識を失いました。
けれど私は意識を失う前に、バックミラーを見てしまったのです。
そして笑い転げる女と目が合ってしまいました。 耳までさけた口、ドロドロにとけかけた目、腐って甘い香りをはなつ肌…。
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