深夜の道路

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 もしかしたら、女のあまりに恐ろしい姿に、私は恐怖で意識を失ったのかもしれません。  私が意識を取り戻したとき、病院の白いベッドの中でした。  あの道をたまたま通りかかった人の通報で、救急車が呼ばれ、私は病院に運ばれたのでした。  助かった…。  病院の消毒くさい香りが、なんとも安心感を与えてくれました。  大した怪我もなかった私は、精密検査をするだけで退院できそうでした。  山の中腹にある小さな病院だったので、他の入院患者はお年寄りが数人いるだけで、看護師も一人しか見かけませんでした。  たった一人の看護師は、かわいらしい白衣の天使でした。彼女と私は、他に同じ年頃の人がいないこともあり、すぐに親しくなりました。  ある朝の検温の時、私は思いきって彼女に告白しました。  彼女は頬を赤く染めて、肯きました。その恥じらう様子がかわいらしくて、私は彼女の手をぐっと引っ張って、抱き寄せました。  そしてキスしようと目をつぶり、唇を寄せました。  けれど…、唇が触れたそのとき、あのバニラの香りが、彼女の口から香ってきたのです。  私は彼女に気付かれないように、そっと目をあけ、掴んでいた彼女の手に視線を走らせました。  彼女の手首には、あの真っ赤な痣がありました。  今度は口づけしている、彼女の顔を盗み見ました。  そこにはもう、かわいらしい天使の顔はなく、真っ赤にさけた口が私を呑み込もうとしていました。  「ギャアアア!」  私は今度こそ、恐怖で気を失いました。  遠のいていく意識の中で、彼女の楽しそうな笑い声が響いていました。  私が意識を取り戻した後、バニラの香りが彼女から香ることはありませんでした。  以前と全く変わらない、明るくて優しい彼女といると、あの恐ろしい幽霊は、私の錯覚だったのではないかと思えてきました。  けれど私は、どうしても彼女ともう一度キスしてみる気にはなれなかったので、退院と同時に彼女と連絡を絶ちました。  それから毎日、彼女から私を怨むラインのメッセージが届きます。私は彼女をブロックして、彼女からのメッセージを見なくてもすむようにしました。  そのうちに諦めるだろう。  そう思って、私はホッとしました。  ようやく、落ち着いた日々を過ごすことが出来ると思っていました  さっきスマートフォンを開くまでは。  
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