第三話 しがみつく男

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後ろに乗ってる彼女の友人のすぐ真横に、両腕らしきものを拡げて貼り付いて、中を覗いている。 入れないんだろう。そのまま腕らしきものを動かして、 彼女の居る助手席の窓のほうまで、モコモコっ モコモコっと移動してる。 俺はすぐに、陀羅尼経と呼ばれる退魔のお経を唱え始め、運転を続けながら左手に持った数珠で、外の血まみれの塊に向けて一生懸命、九字と言われる退魔の飛び道具の経言を、切り続けました。 車が倒れるかと思うくらい揺さぶられ、助手席の窓まで移動してきた男は、うつ向く彼女のほうを怨めしげに、1つしかない目で見下ろし、やがて九字と陀羅尼経の勢いに負けたのか、頂上付近で綺麗に消えました。 そのまま、和田山町まで走って行き、ローソン駐車場に車を停めて、 彼女たちに簡単に経緯を説明して、車をチェックして、帰路につきました。 それから何年もその遠坂峠を避けていたのですが、墓石の仕事で立ち寄った時に、その近所でお世話になってる住職に事情を話してみると、どうやらあの峠で無理心中をした不倫カップルがいたのだと。 男のほうは谷底で、獣にグシャグシャに食い荒らされた酷い姿で発見され、女のほうは奇跡的に助かり、今も健在だそう。     
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