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夢の中で、わたしは少年になっていた。
学ランを着ていたので、中学生、もしくは高校生ぐらいの少年だろう。
黒髪で整った顔立ちの大人びた、聡明そうな少年だった。
少年となったわたしが住んでいたのは、おんぼろの古びたアパートだった。
朽ちかけた階段は登るたびにギシギシと不穏な音を立て、今にも崩れてしまいそうだ。
白く塗装されていた階段はところどころ錆びて、赤茶けている。
廃墟になる寸前の、その風貌だけとってもいかにも陰気で恐ろしげなアパートだ。
薄暗い、一雨降りそうな空。学校から帰ってきた少年は、雨の気配を感じながらもアパートの部屋に戻るのを躊躇っていた。
彼が住んでいたのは二階の隅の部屋だ。何故だか、彼の部屋の一角は酷く暗く見えた。建物全体が薄い闇に包まれたような陰気さを纏っていたが、少年の部屋は闇に食まれたように、とくべつ暗く見えた。
行ってはいけない。あの部屋の扉を、開けてはいけない。
少年の頭の中で警鐘が鳴り響いていた。
家に帰れず、草が伸び放題の庭を、少年は暫くうろ付いていた。
アパートには生き物の気配がまるでない。せめて、隣人なり階下の住人なりが入っていくのを見たら、少しは安心して部屋に入れるのに。
早く家に帰ってくつろぎたい気持ちと、家に帰りたくない気持ちがせめぎ合っていた。
外にいてもすることはない。かといって、遊びに行ける友達のあてもなかった。
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