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少年に父親はいなくて、母と二人暮らしのようだった。
少年は、たった一人の肉親である母親を恐れていた。家に誰もいないことよりも、家に母がいたらどうしようかと、恐れているようだった。
「母さん、仕事できっと家にはいないはずだよな」
少年はぽつりと呟くと、意を決したようにアパートの階段を登っていく。
みし、みし、ぎしっ。
少年の重みが加わる度に、階段は小さな悲鳴を上げる。
周囲はしんと静まり返っていて、異常なまでに静かだった。そんななか、階段が軋む不気味な音が響く。
少年がドアノブに手をかけた。その瞬間、わたしは目が覚めた。
しかし、わたしはまだ少年の目を通して、あの陰惨なアパートのドアを見詰めていたのだ。
おかしい。目が覚めているのに、夢を見ている。
わたしの脳裏を嫌な予感が過ぎった。
頭はしっかりと覚醒していて、私は家に帰るのを躊躇っている少年になっていることを自覚していた。
しかし、体がいつまでたっても起きてこない。
これが世にいう金縛りか。私はそう直感した。
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