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ヨロヨロとデスクに戻ると、佐藤が心配そうにこちらへ寄ってきた。
「おい、大丈夫か?」
「大丈夫ス。名誉の負傷ス」
「なかなか帰ってこないと思ったら、そんなに腹痛いのか。早退するか?」
「しないス」
「薬飲めよ。なかったら貰ってきてやるからな」
「ウス」
佐藤の半分は優しさで出来ている。
こいつが布施だったら簡単なのにな。まぁ、俺が嫌だけど。
そんなわけで俺を気遣った佐藤は仕事の大半を手伝ってくれた。
そのうえ、今日は客先に行く予定もないからと早退を促す。
俺はお言葉に甘えて会社をあとにすると、布施の部屋へと向かった。
合鍵を使って中へ入る。
部屋は俺が昨日出て行ったままだった。朝散らかしたであろう服やベッドを直す。
その時ふと、布施の冷たい言葉がリフレインした。
──付き合ってないし、付き合うつもりもありません。
そんなはずない、あれは照れ隠しで、意地張ってるだけで。
悪い予感を振り払っても、不安は襲ってきて俺の心を冷やす。
「千秋はもしかして、俺のこと、好きじゃない……?」
口に出した瞬間、ズキッ! と胸が痛くなった。
強烈な痛みに、思わず胸を抑えてうずくまる。
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