8.

6/12
前へ
/163ページ
次へ
・ ・ ・ 「────休日はゆっくり過ごせたみたいですね、布施さん」  2人分のコーヒーを持ってミーティングルームへやってきた、メガネをかけた青年が私に笑いかける。  山際(やまぎわ) (のぞむ)。ひとつ下の後輩で、新しい私のパートナーだ。  彼は机に紙カップを置くと、洗練された身のこなしで着席する。 「……いつもと何か違う?」  自分ではわからない。頬を捏ねるように触りながら山際に問うと、彼は頷く。 「なんだかハツラツとしてますよ。一昨日まではこう、眉間にシワが」 「ちょっと。誰が般若みたいな顔ですって?」 「言ってないです」  ふふ、と笑いながらコーヒーを口にする。私も倣って紙コップに口をつけながら、手元の書類を差し出した。  山際がまとめてくれたプレゼン資料だ。うちの企画で何ができるか、制作部での過去の作品などを大まかにまとめ、その会社向きの提案などが盛り込まれている。 「これ、さっき読んだ。わかりやすくていいんじゃない」 「ありがとうございます。……そっか、持ち帰られたみたいだったので、てっきり自宅で読まれたのかと」 「んー、そのつもりだったんだけど」  言葉を濁すと、山際は察しのよい笑顔をみせる。
/163ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3596人が本棚に入れています
本棚に追加