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おいおい、なに傷ついてんだ。俺は布施のことなんて、好きでもなんでもないはずだ。
だからもし「アタシ山際クンと付き合うのっ☆」とか言われても、ぜんっぜんヘーキ!
「ぐはぁッ」
俺は断末魔をあげて倒れ込んだ。
床にゴロゴロと転がりながら両手をバタバタして妄想を追い払う。
おかしいだろ、俺とセックスしまくってるのに山際と付き合うとか。
てか、もしそうなったら俺は捨てられるのかな? 俺を捨てるとはなんて生意気なんだ。
「くそ、布施のことなんて、全然ちっとも好きじゃないもん……!」
呟いてみるが、あまりの嘘っぽさに笑ってしまう。
付き合っていないと言われて、確かに、と思った。だけど落胆したのも事実。
あいつは俺の心なんてとっくにお見通しのはずだ。だけど俺には、あいつの心が見えない。
俺のことが好きだと思うんだけど、じゃなきゃ布施みたいなタイプが身体を許したりするはずないと思うんだけど、違うのか。
彼女の仕草ひとつひとつを記憶の中で辿った。
思い出の中の行為をなぞって、感じ方を観察して、少しでも俺に気のある素振りを探す。
その目線はどういう意味? その微笑みは?
「はぁ……」
自然と溜息が漏れた。
今日も布施は遅いだろう。寝転んだまま帰りを待つ。
このまま寝てしまったら心配してくれるかな。
「犬か俺は」
飼い主を想いながら床に寝そべる大型犬を思い浮かべ、そう独りごちた瞬間、玄関から鍵を回す音が聞こえた。
刹那、俺の体は勝手に跳ね起き、玄関へ猛然とダッシュしている。
これじゃ本当に、ご主人様を待ってた犬みたいじゃん。
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