よる。

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よる。

 ざわざわとした空気を頬に感じ、ぼんやりと浮上する。  誰かが階段を上がってきて、ドアを開く。するりと入ってきた湿った空気と、馴染んだ匂いに安心しまた眠りに戻ろうとすると、肩に大きな手がやんわりと触れた。 「よし・・・、吉央、起きて」  いつもよりどこか沈んだ声。  薄く瞼を持ち上げると、将が枕元に座って顔を寄せてきた。 「今、良子さんから電話があった。ばばあ・・・。ばあさんが、息をしていないって」 「・・・え」  突然の覚醒。 「親父とおふくろがさっき行って確認した。とにかく内科の斎川先生と連絡取れたから、診断は大丈夫。警察を呼ぶまではならない」  将の言葉がよどみなく流れるが、何を言っているのか全く理解できなかった。  確認、内科、診断、警察…?  息をしていない。  お祖母さんが。 「・・・まって。ちょっと待って、将。意味が解らない。息をしていないって、どういうこと」  体を起こすことは出来たと思うけれど、それから先、何をすればいいんだろう。 「眠っている間に死んだらしい。苦しんだ感じは全くなくて、ただもう身体が冷たいって」 「しんだ」  死んだって、あのひとが本当に? 「何かの間違いじゃ・・・」 「吉央」  言葉の続きを、強い力に塞がれた。  額にあたる、広くて硬い胸。  背中にじんわりと交差した熱を感じて、ああ、将だと思った。 「ばあさんは死んだ。もう、何も言わない。それだけだ」  耳元に感じる、息づかい。  将の声が、遠い。  昨日の夜はけっこうな雨だった。  梅雨の終わりにやってくる、亜熱帯のスコールを思わせる雨。地面に叩きつけるように響く水音はまるで、すべての物をねじ伏せるように力がみなぎり、そんな荒天が命の灯火を消したのかもしれない。  全ては推測でしかないが、雨音と時折きらめく雷光のなか、祖母はあの世へと渡った。 「うーん。低気圧に連れていかれたとしか、言いようがないな」  かかりつけ医の斎川氏は、枕元に正座したままぽつりと言う。丁寧に診察したのち、大人たちで身体と寝具を整えた。  祖母の葉子の寝室の中には、母の良子、又従兄の将、将の両親であるひばりと直樹。そして直系の孫にあたる自分をあわせた親族五人で死亡確認に立ち会った。 「死因は心臓突然死。前々からずっと注意していたのに葉子さんは普段からあまり水分を採りたがらなかったから、血流が悪さしたね」
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