幸せのハンカチ

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幸せのハンカチ

ミナは後悔していた。 あのときトミセン(富沢先生)のプリント整理に付き合わなければ部活帰りの理津と会わずにすんだし、理津の恋愛話に付き合わなければ、こんなに泣きたい気持ちにならなかったし、こんな気持ちにならなかったら全身びしょ濡れになってもそこまでへこまずにすんだはず、と。 半年前に閉店した喫茶店の軒下でミナは空を眺めた。 空は濃紺に染まり、白い絵の具に黒色の水を垂らしたような滲んだ色の雲が空を覆っている。 駅から300mほど走っただけで靴下はおろか下着まで絞れそうだった。 (もう少し早く帰れていたらこんなことにならなかったのに) ミナは今更になって元凶のトミセンに腹を立てた。 (なんでいつもいつも私ばかり!) トミセンは何かと雑用をミナに頼む傾向があった。それは人柄の良さと嫌なことをイヤと言えない性格のせいだとミナ自身気づいてはいた。自分の意志を押し通すより先に、他人に嫌われたくないという気持ちが優先してしまう。長所はみんなに好かれるところ、短所は八方美人なところであった。そして、その八方美人が影響し、まんべんなく皆と仲良くする反面、親友と呼べる友人は1人もいなかった。もちろん、恋人も。
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