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帰り道。
冬子と雨宮は、余韻に浸りながら手を繋いで歩いた。
月明かりの下、いつもの静かな住宅街を辿る。
もう何回も、この道をこうやってふたりで歩いた。
「言うの忘れたけど、今日、すごく綺麗だよ」
「えっ、あ、ありがとう」
かなり酔っているのか、珍しく赤ら顔の雨宮が、冬子を見てにこにことご機嫌な様子で褒める。
「雨宮も素敵だよ。惚れ直した」
少し俯きながら照れたようにお返しをすれば、雨宮は、うっ、と少しわざとらしく呻いて顔をさらに赤くする。
「あぁ、すげぇ幸せ。俺なんかが幸せになっていいのかなぁ」
「誰が咎めるの、それ?」
冬子が笑うと、彼は「……そうだよな」と感慨深げに呟いた。
今まで、自分が一番、自分を許していなかったのだ。
昌紀も、冬子も、姉も、誰も咎めはしないのに。
「いつか、ぜんぶ消化できたらさ、俺の姉さんに会ってよ。冬子を紹介したいんだ」
「もちろん」
「俺も、佐野さんにちゃんと会いにいくから」
「……うん」
繋いでいる手を、ぎゅっと握り込んだ。
たぶんこれからも、乗り越えなくちゃならない問題はたくさんあって。
続いていく保証なんてなくて、消化できるかもわからないけど、ひとつずつ一緒に乗り越えながら、恋人になっていけたらいい。
そうやって、ゆっくり大切な瞬間を重ねて、本物になっていったらいい。
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