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 和田悠介にはここ一週間猛烈に心を奪われていることがある。 「行ってきます」  野球部を引退してから使われることの少なくなった自転車を横目に、バス停へ向かう。朝練がなくなって以来、悠介は通学方法を自転車からバスに切り替えていた。楽ができるなら楽がしたい。  バス停までは徒歩で十分もかからない。住宅街を抜けて、幹線道路へ出る入り口のところ。やたらと駐車場の広いコンビニ店の正面にちまりと立つそのバス停の利用者は、そう多くはない。悠介が利用するこの朝の時間帯においては彼を含めて二人しかいない。その、もう一人というのがここ一週間、悠介の関心を一身に集めてやまない人物だ。 (あ、今日もいる。)  バス停横のオレンジ色のベンチに、その姿はあった。  着慣れた風なスーツ。やや先の擦れた革靴。持ち手がくたくたになった黒のビジネスバッグ。どこからどう見ても普通のサラリーマンである。     
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