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年の頃は二十代前半だろう。全体的にやたらと華奢で、恐らく背もそこまで高くはない。恐らく、というのは、悠介が彼の座ったところしか見たことがないからだ。髪は染めていない黒で、どうやっても芸術的に跳ねてしまうので短く刈り込むしかない悠介のそれと違い、綺麗にストンと落ちたストレート。前髪がぱっつん気味なのは男には珍しいが、それを加味しても「普通の人」という印象しか与えない。そんな人物だ。
だが、悠介の心を奪ってやまないのはその容姿ではない。
(うわあ、また食ってる)
彼はいつもバス停のベンチに腰かけて、コンビニのパンを食べていた。そのこと自体に思うところはない。
だが。十人が見たら十人が「細身」と言うに違いないそのサラリーマンが毎日口に運ぶのは、悠介のような食べ盛りの男子高生ですら気後れしてしまうような、カロリーの塊とでも呼べるような代物だったのである。ただでさえバターをふんだんに使ったクロワッサンの生地に、これでもかというほど詰められたホイップクリーム。そして表面には大量のチョコがコーティングされている。時々覚悟を決めてえいやっと食べるなら分かる。だが悠介の見た限り、彼はこの一週間毎日これを口にしていた。
(ああ、こぼしてるし。)
今朝もやはり彼はその重量級モンスターにかじりついていた。スラックスの膝にパンくずをぽろぽろとこぼし、ぼんやりと遠くを見ながら咀嚼する口の動きは緩慢だ。
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