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 白い顔がゆっくりとこちらを向く。はじめて、目があった。墨で塗ったように真っ黒な瞳が、傍らに立つ悠介をはっきりととらえた。はじめてその顔をまともに見て、随分繊細な顔の造りだ、という印象を持つ。とろんとした目は睫毛の一本一本が細長く、唇も随分小ぶりで赤みが強い。どこか女性的な人だな、と思った。 「えっと……?」  戸惑ったような声はしっかりと低い男性のそれで、悠介ははっと我に返る。顔を観察している場合ではない。己に課せられたミッションを遂行すべく、正拳突きをするかのように手提げ袋を持った手を突き出した。 「こ、これっ。もしよければ、食べてください」  いつも半開きだった目が、きょと、と丸くなる。タテヨコ二十センチほどの四角い袋。がしゃんと鳴るのはプラスチック製の箸の音。どこからどう見ても弁当である。 「あの、もしかして、毎日パンしか食べてないんじゃないかって。あっ、人の手作りとか無理ってタイプなら別に無理しなくていいんで、えっと、その」  緊張していますというのが丸わかりな早口でまくしたててしまう自分がみっともない。羞恥で顔を真っ赤にした悠介を、男はただただきょとんと見つめてくる。いたたまれなさに目をぎゅっと瞑ったとき、背後からバスのエンジン音が聞こえた。 「ば、バスが来たんで行きますっ」 「えっ?」     
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