雨の日

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その日も、また雨が降っていた。 家から通っている陽一が、裏口から入り、照明をつけて、店のシャッターを開ける。 「わっ!」  驚いた陽一が思わず声を上げた。 シャッターを開けたすぐ目の前に、例の赤い服を着た女の子が立っていたからだ。 「チョコは?」  いつも通りの問いかけ。 「まだ病院だよ」  いつも通りの返事。 「わかった。また来る!」  いつもなら、そう答えて走り去る。 しかし、この日の赤い服の女の子はいつもと違っていた。 「陽一、チョコのいる病院に連れてけ」  陽一は予想外の反応に驚いて、おかっぱ頭の幽霊をまじまじと見た。 こいつ、なんで俺の名前を知っているんだ?って言うか、なんで命令口調? 戸惑う陽一に、女の子は少し苛立つように眉間にシワを寄せてみせた。 「早くしろ」  陽一は憮然としながらも、女の子を店内に入れてシャッターを閉めた。 どうせ、こんな雨の日に客も来ない。 変に逆らって呪われても困る。 なにしろ相手は幽霊なのだから。 勝手口の鍵を閉め、傘をさして病院へと向かう。けっこう遠いので、タクシーを使うことにした。 女の子はと見ると、陽一の服の裙にしっかりと捕まっておとなしく隣を歩いている。 不審者に見えないかな…… そんなことを思いながら、陽一は流しのタクシーを見つけて手を上げた。 タクシーは目の前に停車して後部座席の扉を開ける。 女の子が、ヒョイと先に乗り込んだ。 陽一も続いて乗り込む。 「どちらまで?」  ミラー越しに陽一を見て尋ねる運転手。 女の子のことはまるで意に介していない。 普通に兄妹にでも見えたか……それとも親子か。 「富士見病院まで」  陽一が言うと、運転手は頷き、タクシーは走り出した。
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