雨の日

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四階の五〇五号室。 祖母のいる大部屋の病室だ。 四階の四部屋めだから、四〇四になるところだが、四は死に結びついて不吉なので飛ばして五の数字が割り当てられている。 「四七一」なら「死なない」、「四七二」なら「死なず」と語呂合わせできると陽一は思うが、まあそこは人によって意見の別れるところだろう。 幽霊を連れた陽一は、古臭い音と振動のあるエレベーターに乗り込んだ。 一緒に乗った女性が、少し怪訝な顔をして、キョロキョロとしていた。 この人は見えないまでも気配を感じているのかな。 陽一は内心そう思いながら知らないふりをして、エレベーターの現在位置を示すインジケーターを眺めていた。 四階に着くと、素っ気ない廊下が左右に伸びており、等間隔にドアが並んでいる。 ひっそりとした、人気のない廊下はどこか空寒い印象だったが、耳を澄ませば部屋の中から、ボソボソと話し声がしているのは聞こえてくる。 「こっちだ」  陽一はエレベーターを背に右側に向かう。以前に何度かお見舞に来ているので、病室の位置はわかっている。 五〇五号室の前に着くと、それまで少し後ろにいた女の子は、ぱぁっと駆け出して病室に入っていった。 「あ、おい……」  少し慌てた陽一に構わず、女の子は病室の一番窓側のベッドに駆け寄る。 紛うこと無く、そこが祖母のベッドだ。 「チョコ!」  女の子が声をかける。 それまで静かに眠っていた祖母が、ゆっくりと目を開けた。 「あらあら、さっちゃん、わざわざ来てくれたのかい?」  祖母は女の子の顔を見るなり嬉しそうに笑った。その顔は、以前にお見舞に来たときよりもさらにやつれている。 「迎えに来た。約束だから」  女の子はそう言って笑った。 何度もその女の子を見ていたはずの陽一が初めて見る笑顔だった。 「そう、さっちゃんは覚えててくれたんだねぇ……」  祖母は頷いて笑った。 笑いながら、一度開いた目を、もう一度、すっと閉じる。 「婆ちゃん……?」  異変を感じた陽一は、女の子の横に出て祖母に手を触れる。 とても穏やかな顔で、祖母は静かに息を引き取っていた。 *
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