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その日の夜。通夜は親族だけで行われ、その六日後に葬式が行われた。
葬儀には、多くの人が訪れて、祖母の人望の厚さを改めて陽一に知らしめていた。
駄菓子屋のチョコちゃんと親しまれていたこともあって、駄菓子屋の近所の子どもたちや、その両親も焼香をあげに訪れる。
そんな参列者の中、祖母と同じくらいの年のお婆さんが、何の気なしに近くにいた陽一に話しかけてきた。
「チョコちゃんには、子供の頃、さっちゃんって言う仲の良い友だちがいてねぇ。
いつも赤い服を着たおかっぱ頭の女の子だった。都会っぽいその感じが気に入らない子たちは、さっちゃんを仲間ハズレにしていたけど、チョコちゃんは優しいから、ひとりぼっちだったさっちゃんと友だちになって、よく二人で遊んでいたんだよ。
自分の家が駄菓子屋だからって、よくお菓子をあげてたね。おじさんも何も言わずにそんな二人を眺めてた。
今になればわかるけど、あの頃はうらやましくてね。なんでさっちゃんばかりお菓子が貰えるんだろうって思ったもんさ。
いくら綺麗で都会的な女の子だって言っても、毎日同じ赤い服を着て、おばあちゃんと一緒に暮らしていて、誰一人、父親も母親も見たことがない。そんな訳ありの子だったわけさ。
あれは六月の雨の日だったね。
チョコちゃんとさっちゃんと私、あとなっちゃんだったね。みんなで私の家で遊ぼうかってなって、なっちゃんは家が近いものだから、先に来て私と二人で家で待つことになった。
さっちゃんが、チョコちゃんを迎えに行って二人で来るはずだったんだ。
だけどね……さっちゃんは途中で車に轢かれてしまったんだ。
なかなか来ないさっちゃんを心配したチョコちゃんが第一発見者。さっちゃんを轢いた車は居なかった。かわいそうに、轢き逃げされたんだ。
急いで病院に連れて行ったけど、さっちゃんは助からなかった。
葬儀は、本当に質素な感じだったね。
チョコちゃんが、ひどく泣いてね。
そう言えば、あの日も雨だったね。
ちょうど今日みたいな雨さ。
粒は小さいけど、密度が濃くって、前が見えなくなるような雨。
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