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 それでも何人か付き合った彼女はいた。けれど、しばらくすると「陽史には自分の考えがないの!?」と最後は決まってキレられフラれてしまう。最初の頃はあんなに「陽史は女子に合わせてくれるいい彼氏だよー!」とベタ褒めしていたというのに。  私にばっかり考えさせていないで、たまには自分でデートプランを立てたらどうだ、ということだったのだろうか。でも、最初に向こうが言ったんじゃないか。今日は美味しいハンバーガーを食べに行こうと誘ったら、「えー、私、そろそろ秋物の服が見たいと思ってたんだよねー」って。自分の考えを言ったら女子はすぐこれである。だったら自分はどうするべきだったのか――考えたが、陽史は未だにその答えにたどり着けていない。  それはともかく。  今月のバイト代も目に見えている状態では、四月からの生活もままならないことだけは確かだ。新しくバイトを探さなければ食費だって賄えないし、学食の日替わりA定食360円(安いくせに絶品)すら、食べられなくなってしまうかもしれない。  大学進学を機に一人暮らしを始めて二年。親からは毎月、決まった額の仕送りをもらってはいるが、正直、家賃光熱費を払えば二万程度しか残らないので厳しいのだ。  今日、陽史が大学に出向いているのは、そういう事情だった。生憎と言うべきか、幸いと言うべきか。なにしろ時間だけはたっぷりあるので、構内のアルバイト掲示板で自分にもできそうなバイトはないか探そうと思ってのことである。 「って言っても、なかなかなあ……」  就職課が入っている棟の外の掲示板に貼られているアルバイト求人を一つ一つ確かめていきながら、陽史はううむ、と顎を撫でつつ首をかしげるばかりだった。  ガラスケースの中に行儀よく陳列された高級貴金属よろしく魅力的な求人は、企業からのものや就職課の職員が企業開拓して得たものばかりなので、信頼性もあり高時給ではある。しかし、ちょっと嫌なことや辛いことがあるとすぐに辞めてしまいがちな陽史にはどれも敷居が高いように感じられ、なかなか食指が動かないのが現状だった。 「あーあ、どっかに楽で割のいいバイトはないもんかねー」  ついには本音がダダ漏れる。んなもん、あるわけないのはわかっているけれど。
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