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私の声を聞いて男性が戻ってきたのですが、その肩に持たれるように右の髪だけが不自然に切られた女性がいたのです。
「あ、あの…。」
「…ああ、コーヒーこぼしちゃったんですね。大丈夫ですよ、新しいの持ってきますから。」
男性は、背中にもたれる女性には気づいていないようでした。
「ぁ、、、あ、、はゃ…、、、ぅあぁ、、。」
私にしか聞こえないその声は、コーヒーカップに手を伸ばしてきた声と同じでした。
…女性は、ゆっくりと手を持ち上げて出口を指差した時。
「…ニゲ…ロ!!!!!!!!」
突然、張り上げられた声に体が自然と動き出したのです。
「す、すみません、急用ができちゃって、、」
慌ててカウンターに預けた荷物を持ちお店の外へと飛び出した。
振り返るとお店の入り口に男性は立って優しい口調で『また、いつでも』と言いながら微笑んでいました。
男性の体に持たれながら外を指差す女性と男性の足を抑えるように無数の手が絡んでいたのです。
なぜ、女性が『逃げろ』と叫けんだのか。
なぜ、コーヒーを飲ませなかったのか。
今ではその店の前すら通らなくなってしまった私には、わかりません。
…あのまま、私があの店にいたら…
恐怖だけが、体に残っています。
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