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 結局、芳沢にがっちりと捕らえられた安藤は諦めるしかなかった。不機嫌そうな表情を浮かべながら手首を離してくれない芳沢を睨みつけ、しぶしぶ長椅子に座る。 「寺尾のやつ、今から来るってよ」  電話を終えた芳沢の言葉を無視する。雄馬が来たら、隙を見つけて芳沢の手を払い除けて、さっさと逃げればいい。そう思いながら安藤は入口を見つめた。  しばらく入口を見ていると、芳沢のスマホが震え出した。素早くそれを取り出すと、芳沢は耳に当てる。 「今? 今はなんとか説得して一号館の玄関先のロビーにいる。でもまだ死なせてくれって叫びまくってるぜ」  誰がそんな非現実的な嘘を信じるものかと呆れる。呆れて何も言えなかった。  大きなため息をついたその時、それまで静かだった校舎の入口が突如騒々しくなった。自動ドアが開くより先に、それを手で開けようとする人物は、雄馬で間違いなかった。  自動ドアを鬱陶しそうに開けて校舎に入った雄馬は、焦った様子でキョロキョロと周りを見渡す。雄馬は半袖半ズボン、足元もサンダルという服装を纏っている。四月の下旬には、まだ寒そうな格好をしていた。  懐かしいその姿を、安藤は芳沢の隙を見つけることも忘れて、じっと見つめてしまう。  キョロキョロと周囲を見渡していた雄馬はこちらに気づくと、怒ったような、泣きそうな顔をして近づいてきた。  すると、突然左頬に痛みを感じた。何が起こったのか訳がわからないまま、自分の目の前に立つ男に視線をやる。 「……っんの、馬鹿野郎っ!」  頬がジンジンと痛い。自分は平手打ちされたようだ。  雄馬の目から涙が流れ落ちている。 「死のうなんて二度と考えんなっ、二度と言うなっ!」  泣きながら叫ぶと、雄馬はしゃがみこんで「頼むから……」と弱々しくつぶやく。  雄馬の様子が芳沢にも予想外だったのか、それまで掴んで離さなかった安藤の手首を簡単に離した。そして雄馬の背中をさすりながら言う。
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