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「安藤は今年は実家帰んないの?」
「教え子に正月返上で勉強見てくれって言う受験生がいるから、今年は無理だな。まぁ春休みにでも帰るよ」
「了解。じゃ、オレ行くわ。よいお年を!」
雄馬はそう言ったあと、改札に向かうため、安藤に背を向けて歩き出した。改札を通ったあと、背後から「寺尾!」と大きな声が聞こえてきた。
雄馬は驚いて振り向くと、安藤が満面の笑みでこちらに大きく手を振っていた。
「今日は本当にありがとな! お土産よろしく!」
「うっせ、ばーか! 実家帰ったとき自分で買え!」
安藤と改札で別れたあと、電車に乗るためホームへと向かう。
年末だからか、夕方なのにホームにはあまり人がいない。電車がすぐに来る様子もなく、雄馬は仕方なくホームのイスに腰掛けた。
すると、そこから反対側のホームのイスに中学一、二年生くらいの少年が二人座って、楽しそうにゲームをしているのが見えた。
雄馬はふと、安藤とはじめて出会ったときのことを思い出す。
雄馬と安藤が出会ったのは、中学一年生のときだった。クラスは違ったけれど、二人ともテニス部という共通点から、互いに存在だけは知っていた。
しかし、部活に対して真面目な安藤と、不真面目な雄馬。そんな二人が仲良くできるはずもなく、当時話した記憶は数えられる程度しかない。
先輩から頼られていた安藤は、雄馬も含めた不真面目な部員に注意するよう、顧問や上の学年から任されていた。
雄馬は安藤から何度も「部活に出ろ」と学校中を追いかけまわされていた。このときは、たぶんお互いに嫌い合っていたんじゃないかと思う。少なくとも雄馬は安藤のことが嫌いだった。
しかし中一の冬のこと。雄馬はそれまでサボり続けていた部活に、ただの気まぐれで出ることにした。ちょうどその日、部活に参加していた同輩は安藤だけだった。
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