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「わ、悪い寺尾……。おまえにどうしても来てほしくて、オレが嘘ついた。安藤は死のうなんて思ってない」
それを聞くと、雄馬は意外にも怒ることはせず、安心したのか、一気に脱力して芳沢に寄りかかった。
「よ、よかった……びっくりした……」
「本当に悪かったよ……」
そう言いながら、芳沢は雄馬の肩を抱き抱えるようにさする。密着している雄馬と芳沢を見ていると、なぜか胸が苦しくなった。
とりあえず飯でも食おう、と提案してきた芳沢に、安藤も雄馬も流されるようについて行く。
雄馬に会ったら、とにかく気まずいだけかと思っていたけれど、そんなことはなかった。もちろん気まずさはあったが、それよりも懐かしい気持ちの方が強かった。そのためか、安藤としては一緒に食事をすることに、さほど戸惑いは感じられなかった。
だが、雄馬はどうなのだろう。雄馬が食事に賛成した理由がいまいちわからなかった。
ファミレスに入るまで、三人の間に会話はなかった。ファミレスに入った後も、しばらく沈黙が続いた。
席に着いたあと、その沈黙を破ったのは雄馬だった。
「芳沢、さっきみたいな嘘、もう二度とつかないでくれ」
絞り出すように言う雄馬は、とてもつらそうだった。雄馬はきっと、香奈美のことを思い出している。自分が香奈美の死を雄馬のせいにした時、雄馬は尋常でないくらいショックを受けていた。
だけど安藤は安藤で、姉の苦しみに気付いてあげられなかった後悔を他人のせいにした時、ありえないくらい気持ちが楽になったのもまた事実だった。だから雄馬のせいにしてしまった。しかも、そのあとは無理矢理抱いてしまったのだ。
考えれば考えるほど、自己嫌悪に陥ってく。膝の上で作った拳をさらにきつく握った。
「ああ、悪かったよ。ごめん」
芳沢は頭を下げて謝った。
「いいよ、オレもちょっと考えれば嘘だってわかる事だったのにな」
雄馬も頭を下げた。
雄馬は、もしかすると自分が香奈美のように雄馬のせいで自殺すると思ったのではないだろうか。実際には香奈美の死も雄馬のせいではないのだけれど……。
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