11/36
前へ
/167ページ
次へ
 雄馬に話す気など微塵もなかったが、部活後の着替え中に、安藤の方から話しかけてきたのである。 『おまえずっと部活出てなかったから、だいぶなまってたんじゃないか? どうよ、久々の部活は』  安藤はそれまでのわだかまりを少しも気にさせない笑顔で話しかけてきた。そんな男に最初は戸惑ったけれど、こちらも徐々に気を許し、口を開いたのだ。  話してみると、安藤はそれまでの印象と百八十度違い、気さくで優しくて、おまけにバカみたいな冗談も通じるいいやつだった。 「あのデブリン、寺尾に自分で注意する勇気がないから後輩の俺に頼ってきてるんだぜ。ダサいよな」  はじめて一緒に帰った日、嫌いな先輩からの嫌な頼みも受けつつ、笑いに変えてしまう安藤をちょっと尊敬したものだ。  これを機に、雄馬は不真面目な部員から一転真面目な部員となり、安藤とも仲良くなったのだ。  結局六年間、同じクラスになることはなかったけれど、雄馬の隣にはいつも安藤がいた。楽しいことも苦しいことも、すべて安藤と一緒に経験してきた。  恥ずかしくて面と向かっては言えないけれど、自分は安藤のことを親友だと思っている。安藤もきっと自分のことを同じように思っているはずだ。  だから大学進学のために二人で上京したし、自分が新歓コンパで酔って部屋の鍵を失くしてからは、合鍵も安藤に預けてある。 「それじゃあ、俺も」  と、安藤の部屋の鍵を渡されたときは、失くしたらどうしようと思ったけれど、安藤だって意外と抜けている。互いに見張っているぐらいが、ちょうどいいのだ。  なんとなくサークルもバイトも同じものになり、考えてみれば学部を除くすべてが、安藤と同じ所属になった。  だが、こんなに仲が良くったって、どちらかに彼女が出来たときのルールくらいある。  以前、安藤の当時の彼女から、仲が良すぎて嫉妬されてしまったことがあるのだ。あれはなかなかの修羅場に発展した。 「部屋の鍵を渡し合ってるなんて、いくら仲のいい友達だって、普通しないでしょ。気持ち悪いのよ、あんたたち」  と、二人して罵られ、苦笑いしたのも今となっては笑い話だ。
/167ページ

最初のコメントを投稿しよう!

563人が本棚に入れています
本棚に追加