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***  大晦日と元日、雄馬は実家のある長野で過ごした。  安藤と仲良くなってから気付いたことだったが、二人は実家のある場所も近かった。  だからここ数年、年末年始さえも安藤と過ごすことが多かった。安藤がいれば届いた年賀状の中で個性的なものを見て爆笑したり、互いの実家周辺の雪かきをしたり、スキーに行ったりできる。  けれど今回は安藤がいない。  正月なのに実家の母親に、「あんた何しにきたの」と言われるくらいコタツから出ず何もしなかった。  あまりにもつまらなかったので、雄馬は正月早々東京に戻ることにした。  ぐうたらするばかりの息子のこの決断に、母親も快く了承してくれた。  思い立ったらすぐ行動したい派なので、すぐさま荷物を整え母親に「じゃあ」と言って実家を出る。雪に覆われた道路に苦戦しながら、駅に続く天井のある商店街にたどり着く。商店街を通り抜ければ駅だ。 「雄馬ちゃん、どこいくの?」  歩いていると、顔馴染みのクリーニング店の大山のおばさんに声をかけられた。 「することないんで、東京に戻ろうかなって」 「あらもう? まだ三日よ」 「課題とかいろいろあるんで」  大山さんはお喋りなので、あまり長居したくない。だが、そんなことを考えているうちに、すっかり大山さんに会話の主導権を握られてしまった。 「今年はいつもより降るわね~。もう雪かき大変よ。そういえば毎年安藤さんのとこの啓一君と、雪かきやってなかったかしら? 今年は啓一君は? いないの?」 「あいつ、今年は教え子に受験生がいて、帰って来れなかったんですよ」  それとなくクリーニング店前の時計店の時計を見る。時間を気にしている素振りを見せるが、大山さんには伝わらない。 「教え子!?  なぁに、啓一君ったら、先生をやってるの?」  やばい。話を拡げてしまった。  完全に会話を切り上げるタイミングを逃した。どうしようかと考えていると、商店街の向こうの方からこちらに手を振る人がいるのが見えた。
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