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「香奈美さん、結婚しないの?」 「はあ。ゆうちゃん絶対モテないでしょ。三十路前の女にそれは禁句だから」  香奈はため息をついた。 「病院の医者とかは?」 「嫌よー! あんなに忙しい人たちと結婚したら絶対大変だもん」  看護師の香奈美は、正月から夜勤だったらしい。見せないようにしているが、本当はかなり疲れているのかもしれない。以前より細くなった体が、少し気になった。 「ゆうちゃん。あたし……もうダメかも」 「ダメって、なにが?」 「バカねえ。この流れは結婚でしょ!」 「さっきからなに言ってるんだよ。香奈美さんなら結婚できるって」 「本当にそう思う?」 「思う思う」  適当にそう言うと、香奈美はニッと笑った。 「じゃあ、結婚式には絶対啓一とゆうちゃんでなんかおもしろいことやってよね」 「えーオレもー? 安藤だけでいいじゃん」 「ゆうちゃんも! 二人ともあたしの弟なんだから」  香奈美に『弟』と言われて、少し照れる。  兄弟のいない雄馬にとって、昔から姉同然のように慕っていた香奈美からそう言われるのは純粋にうれしかった。 「そういえばさぁ、啓一って今彼女いるのかな?」  香奈美のつぶやきに、ギクッとした。 「えっと、まぁ一応それっぽいのは出来たみたいだけど……」 「このまえ、今年は帰れないって電話してきたときにね、訊いたんだ。彼女出来たかーって。でもなーんか濁されちゃったんだよねぇ」    まさか姉に恋人が男だなんて言えないだろう。電話口で困っている安藤が容易に想像でき、勝手に同情した。  そんなことを話しているうちに、雄馬と香奈美は駅に着いた。 「啓一に彼女出来たんなら、お姉ちゃんにちゃんと紹介しなさいって言っといてね! ゆうちゃんも彼女出来たらあたしに言うんだよ。見定めてあげるから!」  昔から、香奈美は人のコイバナが大好きなのだ。姉同然の人にこう言われてしまったからには、弟たちに拒否権はない。
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