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 雄馬は「わかったよ」としぶしぶ答えた。  香奈美に別れを告げ、改札を通る。 「気を付けてね! 春休みには絶対二人で帰って来なさいよ!」  改札前で子どものような笑顔で手を振る香奈美は、やっぱり安藤によく似ている。  手を振り返したあと、香奈美と故郷を背にし、雄馬は電車に乗り込んだ。  白色に覆われた町全体を電車の中から見つめながら、ふと香奈美の笑顔が思いだされる。すると、年末に「お土産よろしく!」と笑顔で言ってきた安藤のことが頭に浮かんだ。  あいつはたぶん、一人で年越したのだろう。  そう思うと、若干哀れに感じる。そうだ。安藤の好きな漬け物くらい、買っていくか。  雄馬は新幹線に乗る前に、安藤の好きな漬け物を買った。長芋の、ご飯によく合うやつである。
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