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***  東京に着くとすぐ、雄馬は安藤の部屋へと向かった。帰ってきたという報告と、お土産を渡すためである。  安藤の部屋の前まで着くと、合鍵を使ってドアを開けた。 「あんどーいるかー? おまえが寂しがってると思って、帰ってきてやったぞー」  ワンルームの部屋に入ったと同時に目に飛びこんできたのは、安藤と古瀬が不自然に背中合わせになって床に座っている光景だった。安藤は真っ赤な顔をしているし、古瀬も同じく真っ赤な顔をして口元を手の甲で少し擦っている。  こいつら何してんだ?  と、ぼんやり見ていると、安藤がだるそうに言ってきた。 「おい寺尾……一応インターホン使ってくれよ」 「え? だって合鍵あるし、わざわざインターホンなんて……」 「俺言っただろ。古瀬と付き合うことになったって」  安藤はため息をつきながら、古瀬に視線を向けて言う。  雄馬はハッとした。そうだった。安藤と古瀬は付き合っているのだ。忘れていたわけじゃないけれど、あの暗黙のルールを持ち出すという発想は驚くほどなかった。  しかし本人から「付き合ってる」と言われても、実際二人を目の前にするとあまりにもしっくりこなかった。安藤と古瀬はいつも雄馬が見るサークルでの先輩と後輩の間柄にしか見えないし、なにより男と男なのだ。  けれど本人たちがそう言うなら、しょうがない。  それに安藤を応援したいという気持ちはあるし、いくら男同士と言ったって二人が付き合っているのは事実だ。だったら今までの自分と安藤の間に存在するあの暗黙のルールだって、守らなければいけないはずなのだ。 「……悪かったな」  頭ではわかっている。だが正直なところ、なぜ古瀬に自分が遠慮しなければならないのかとも思う。後輩なのに。苦手なのに。男なのに……。
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