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「ごめんな」  玄関に戻る雄馬に、安藤はすまなそうに謝ってきた。  安藤の謝罪を無視して靴を履く。そして荷物を乱暴に掴んでドアを思いっきり開けると、雄馬は部屋を出た。  なんだよ。なんなんだよ。イライラする。  安藤のアパートを出てから足早に歩きながら、雄馬はずっと苛立ちを隠せなかった。  どうして。どうして自分が追い出されなきゃいけないのだ。全然付き合ってるようになんか見えないのに。  そこまで考えて、ふと足を止めて思う。安藤は、もしかして古瀬と年を越したのだろうか……。  頭の中に、黒いなにかが侵入してくる。それと同時に、安藤に故郷で買った漬け物を渡すのを忘れていたことを思い出した。ビニール袋がクシャッとと音を立てる。  別に、今度会うときにでも渡せばいい。やたらめったら、無駄な電話やメール、安藤の部屋への入り浸りさえしなければ、いつだって会えるのだ。それに自分から連絡しなくたって、あっちの方から都合の良いときに連絡してくるはずだ。  だけど。  『無駄』って、なんだ?  無駄なことなんて、自分たちのあいだには一つもなかったはずだ。ぜんぶ、必要だったことなのにーー。  漬け物の入った袋をギュッと握り、雄馬は自分のアパートに戻るため、再び歩き出した。
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