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「話したいことがある」
そう親友の部屋に呼び出されてから早二時間。一向に話す気配のない親友に、寺尾雄馬は困っていた。
コタツを挟んで目の前に座っている親友の安藤啓一はコタツに入っているとはいえ、異常じゃないくらい汗をかいている。それに加えて、迷子になった子どもが今にも泣き出しそうな表情が、雄馬をイラつかせるのだった。
最初の三十分はなかなか言い出そうとしない安藤に苛立ち、
「どうしたんだよ、早く言え」
と、何度も催促していた。
しかし曖昧な返事ばかり返され続け、次第に苛立ちを通り越して聞く気力も失せてしまったのである。
やることもないので、仕方なくコタツの上にあるミカンを掴んで皮を剥き始める。すでに雄馬の目の前には花のような形に剥かれたミカンの皮が、五枚も開いた状態で置かれていた。
六個目を食べ終わってもまだ話さない安藤を確認する。まだ言いだす気配はない。おまえが呼びだしたんだぞ、と言ってやりたい気持ちをぐっと抑え、雄馬はわざとらしくため息をついて携帯をいじり始めた。
雄馬はこの二時間というもの、ミカンを食べては携帯をいじり、携帯をいじってはミカンを食べ……を繰り返していた。
もう何周目になるんだろう。同じ行動のサイクルは、さすがに時間の無駄だ。今日言えないならまた今度にしよう。そう言おうとしたその時だった。
「こ……恋人が、できたんだ……」
は?
雄馬はポカンと口を開けた。そして今度はちゃんと声にする。
「は?」
まさかその事を報告する為だけに、自分はこれほど待たされたというのか。そうだったらあまりにも拍子抜けである。
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