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「なんだよ。ぜってーなんかあったんだろ」 「……べつに」 「安藤と喧嘩でもしたか?」  まさかこんなところで安藤の名前が出てくるとは、思ってもみなかった。 「は、なんで安藤が出てくんだよ」 「んー。なんか最近おまえと安藤が一緒にいるとこ、あんまり見ないからさ。おまえサークルに全然出ないし。地味に噂になってるんだぜ。あんなに仲良かったのにどうしたんだ、ってさ」  噂されていることも、心配されていることも、快く思えなかった。だが、ここで自分が不機嫌な理由を言ってしまったら、安藤と古瀬の関係がバレてしまう。二人が付き合っていることを口止めされているわけではないが、他人の口からベラベラ語るべきことでもないと思った。特に相手が『男』で、しかも後輩の『古瀬』だということはーー。 「喧嘩なんかしてねーよ。ただあいつには今、まじで好きな恋人がいるらしいから、オレは邪魔しないようにしてるだけだよ」 「えっ? 安藤って彼女できたのか!? うーわー……またサークルの女子がうるさくなるなぁ」  ラーメンの汁に髪の毛がついてしまうんじゃないかというくらい、永田は頭を落としてつぶやく。  さすがにこれ以上何か聞かれたら墓穴を掘ってしまう気がする。昔から隠し事は苦手だ。  まだ食べ終わっていない盆を持って席を立つ。 「っちょ、どこいくんだよ」  永田のどんぶりにも、まだラーメンが残っている。 「午後からバイトだからもう行くわ」 「今日もサークル行かないのか?」 「悪い、行かない」  冬休みが終わってから、雄馬は一度もサークルに顔を出していない。無理矢理バイトを入れてサークルに行けないようにしているのだ。理由は一つ。安藤ならまだしも、なぜか古瀬の顔を見たくないからだ。
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