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こんなことをしていたら、普段の安藤なら絶対に心配してくれる。そのはずなのに、安藤からはまだなにも連絡がない。自分勝手なことをしていると思ったが、純粋にかまってほしかった。自分の女々しさにあきれる。
さっさと盆を片付け、食堂を出る。下を向きながらキャンパス内を歩いていると、後ろから雄馬を呼ぶ声がした。
振り向くと、今一番会いたくない人物がそこにいた。
「寺尾先輩」
古瀬である。雄馬を探していたのか、少し息を切らしていた。
振り向いてしまったからには、無視する訳にもいかない。話したくない気持ちを押し殺して、「なに」と無愛想に聞いた。
「あの、その……」
古瀬は目を泳がせながらどもっている。
「オレさぁ、これからバイトなんだよ。用があるなら早くしてくんない?」
「す、すいません。あの……このあいだは、気を遣わせてしまって……」
古瀬は申し訳なさそうに頭を下げて謝ってきた。
雄馬は古瀬のこういうところが、新入生としてサークルに入ってきたときから苦手だった。この、気持ち悪いくらい丁寧で謙虚なところが。大学のサークル程度の上下関係で、なぜここまで堅苦しいのかと思う。
「なんのことだよ」
もちろん古瀬が謝ってきた理由はわかっている。だが、自分が気にしていたということを悟られたくなかった。
「寺尾先輩が、せっかく安藤先輩に会いに来たのにオレのせいで気を遣わせてしまって……」
「ああ、それ? 別に気にしてないからいいんじゃないの?」
視線を合わせようとしてくる古瀬に対し、あえて視線を反らして投げやりな態度で言う。
自分でもこんな態度では、気にしているのがバレバレだと思った。第一、なんて大人げないんだろう。
古瀬も雄馬の態度に怖気付いたのか、何も言えなくなっている。
まるで後輩をいじめているようである。そんな状況に堪えられなくなり、雄馬は「もう行くから」と古瀬に告げてその場を離れようとした。
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