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『ほら、女の子の中にもさ、彼氏が他の女と話してたりすると、嫉妬する子っているだろ? 実際今まで付き合ってきた子はみんなそうだったし。でも今回は相手が男だろ。俺が他の男と話してたり仲良くしてるところを見たら、古瀬に嫌な思いをさせるんじゃないかって……そう思ったらさ』  そして神妙な声で「連絡できなかったんだ」と、安藤は言った。 「古瀬はそんなこと思わねぇんじゃねーか? だからあいつは、安藤に連絡してあげてくれって、オレに頼んできたんじゃねぇの?」 『そうなのかな……』 「それに、もともとおまえはゲイじゃないんだし、古瀬的には男よりも女に対して警戒するもんなんじゃないか?」  そう言うと、安藤の声色がわずかに明るくなる。 『確かに……!』 「だからおまえが暇な時は連絡してこいよ。いつもみたいにさ」  自分でもびっくりするくらい、安藤を励ましていた。安藤に避けられていたわけじゃないと知っただけなのに。 『寺尾』  少し話した後、安藤が静かな声で雄馬を呼んだ。先程とはまた少し違った真剣な声に、思わず正座する。 「な、なに」 『ありがとう。こんなときしか言えないけど、おまえってほんといいやつだと思う。俺が男と付き合うことになっても変わらず接してくれるし。嬉しいよ』  その言葉を聞いて、少し胸が痛んだ。  この間もそうだったが、最近の安藤は「ありがとう」と、よく言うようになった。聞いてるこちらが恥ずかしくなるくらいの真っ直ぐなことを口にする安藤は、嫌いじゃない。  でも、少し違和感がある。そしてそれが、なぜか寂しく感じるのだ。 『今日はいろいろ聞いてくれてありがとな。それと、この間はごめん。無理矢理追い返すみたいな形になって。それじゃあ、おやすみ』 「あ、安藤!」  おやすみと言われた途端、安藤が遠くに行ってしまいそうな気がした。まるで「さよなら」と言われるみたいに。
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