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「あー……っと、そうだ。明日の夜さ、久々に飯食わない?」  偉そうな事を言っておきながら、結局自分が一番寂しいのかもしれない。自分はいったい、何をしているのだろう。携帯を握り締めて、ご飯に誘ったことをさっそく後悔する。 だが。 『もちろん!』  明日の約束をして電話を切った後、説明のつかない嬉しさがこみあげてきた。明日は、安藤と久々にメシが食える。いつものくだらない話が、存分にできるのだ。  安藤から連絡が来なかった数週間、雄馬はあまり人と話していなかった。安藤がいないと、自分はここまで喋らないのかと何度も思ったものだ。  ベッドの上で枕を抱えながら、明日は安藤と何を話そうかと考える。  実家の隣に住んでるおばちゃんの髪の毛が、サツマイモ色になったこと。電車で目の前にいたおやじがアソコをガリガリ掻いていたこと。自分には貧乏揺すりをするクセがあったこと。バイト仲間の藤木の鼻息が荒すぎること。コンビニの店員の態度が悪かったこと。文学部にものすごい巨乳がいること……。  もっともっと話したいことはあったはずなのに、結構忘れてしまっている。  こんなに安藤と話していなかったなんて、不思議な感じがする。面と向かって、普通に話すことができるといいけれどーー。  何を話そうかと考えているうちに、雄馬はいつの間にか眠りについてしまっていた。  次の日。安藤と約束した時間から、約二時間が経っていた。  『悪い。三十分ぐらい遅れる』という連絡が来てからカフェに入って時間をつぶしていたけれど、混雑している店内にコーヒー一杯だけで長時間居座るのも忍びなく、一時間経ったところで会計を済ませ、改札前で安藤を待つことにした。  雪が降りそうな空模様である。つんとした寒さが、身に染みる。人足の流れを見つめていると、さらに心もとなくなった。  雄馬は午前中だけだったが、安藤は午後もバイトだったらしい。携帯を見ると、午後八時を示していた。  二月の夜の冷たい風が頬に当たるのを感じながら、ズッと鼻をすする。外で待ち始めてから、もうすぐ一時間が経とうとしている。
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