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どうして来ない?
もう一度時間を見ようと携帯を取り出したその時、携帯が震えた。
『悪い寺尾! 質問攻めにあってた! 連絡しようと思ったんだけどなかなかタイミングが掴めなくて……まだいるか!?』
「……いるけど」
『今すぐ行く!』
そう言うと、安藤はブチッと電話を切った。無理矢理切られて苛立ちはしたけれど、あまりにも声が必死だったので、一応許しておく。
電話が切れてから十数分後に、安藤は息を切らして駅の改札口にやって来た。
安藤の姿を確認し、待たされた怒りも寒さも忘れて、雄馬はほっと笑みを浮かべる。
だが。
一瞬にして、雄馬の表情は凍りついた。
安藤の後ろには、誰かがいた。ちゃんと見なくても、それが誰なのか、すぐにわかってしまった。
「え……?」
あまりにも予想外だった。なんで古瀬がいるのだろう。
?然としている雄馬に、古瀬は若干気まずそうに頭を下げてくる。
安藤だけが、雄馬と古瀬の気まずさに気づいていなかった。
「バイト終わった後にこいつにメールしたら、まだ飯食ってないって言うからさ。こいつも一緒にいいか?」
「いいか?」と聞かれて「駄目だ」と答えられる日本人は凄い。
「……いいけど」
苦い気持ちを奥歯で噛んで、ぐっとこらえた。
三人は、雄馬と安藤がよく行くファミレスで夕食をとることにした。チカチカと光るファミレスの看板を見上げて思う。そういえばここは、安藤としか来たことがないーーと。
二人でいる時は何となくこのファミレスか、どちらかの部屋に行くのが常だった。
今思うと意識はしていなかったが、ここに自分と安藤以外の第三者を連れてくることは、避けていたような気がする。まるで秘密基地を誰にも教えないように。
だが今夜、安藤は当たり前のように「ここにしよう」と提案してきたのだった。少しショックだった。
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