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 雄馬と安藤が向かい合う形で座り、古瀬は安藤の隣に座る。このメンバーだったらこの配置は当然のはずだ。  しかし、今の雄馬にはそれさえも気分が悪くて仕方なかった。  席に着き、メニューを見ながら安藤はつぶやく。 「何食おうかな。寺尾と古瀬はどうする?」 「オレは誰かさん達のせいで冷たくなった体をあっためてくれるモンなら何でもいーや」  冗談ぽく言うと、古瀬は本当に申し訳なさそうな顔をした。が、安藤は謝りつつも、同じく冗談っぽく返してくる。 「悪かったって! じゃあ、あったかいモンなんか一つ奢ってやるから、それで許せ!」  安藤は、前より少し明るくなった。前から明るいやつだったけれど、自分といるときは突っ走ってしまいそうになる雄馬を落ち着かせたりなだめたり……自分から前に出てくるような男ではなかった。  それと同時に、気付けば安藤の言動ばっかりにいちいち何か考えてしまう自分が苛立たしかった。 「優馬はどうする?」  ふと安藤が古瀬に向かって「優馬」と呼んだ瞬間、その場の空気が止まった。  思わず顔を上げると、苦い表情の古瀬と目が合った。 「あ、ごめん。古瀬はどうする?」  安藤は何事も無かったように続ける。  そんな二人を見て思う。おそらく安藤と古瀬は二人きりのとき、名前で呼び合っているのだろう……と。だったら自分の前でも、名前で呼び合えばいいのに。二人がどう呼び合おうが、自分はまったく気にしない。関係ないのだし。こうやって二人の間にしか存在しないものを垣間見せられる方が、よっぽど気になるというものではないだろうか。 「ちょっとトイレ行ってくる」  雄馬はそう言って立ち上がると、一人でトイレへと駆けこんだ。  トイレの鏡で、自分を見る。我ながらひどい顔をしていた。頭をムシャクシャに掻きむしる。そして「はー……」と息を吐いて脱力しながらしゃがみこんで、洗面台に伏せて腕に顔をうずめた。  くそ。くそくそくそーー。なんなんだ。  安藤と古瀬を見ていると、腹が立ってしょうがない。それ以上に、自分に。
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