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「……よかったじゃん。え、っていうかそれだけ? もしかして、今オレに彼女がいないから遠慮して言えなかったとか?」  だとしたら、なんて情けない話だろう。 「そ、そうじゃないっ」 「じゃあなんだっていうんだよ」  安藤は再び言いたくなさそうに下を向いた。  この安藤という男は、気遣いがヘタクソなところがある。  今までどちらかに彼女が出来ると、彼女のいない方が出来た方に対して「どうせすぐ別れる」やら「自分の方が可愛い子と付き合える」といった、羨ましがるような茶化しをしていた。  しかしそれは本気なのではなくおめでとうと言う恥ずかしさを隠す為の冗談だ。もちろん本心では祝福している。  先日、雄馬が彼女と別れたばかりなのを気にしているのだろうか。だとしたら、なんて水くさいんだろう。安藤に彼女ができたことと、自分が彼女と別れたことは別の話だ。  あれ?  あることが引っかかった。そういえば安藤は「彼女」ではなく「恋人」と言っていた。  「恋人」……? 今までこいつは、自分の付き合う女の子をそんな風に呼んでいただろうか。もしかしたら、安藤はその子に本気で恋をしているのではないか……と雄馬は思った。本気だからこそ、学生が使うには少々違和感のある「恋人」という言葉をわざわざ使ったのかもしれない。  そう考えると、スッと楽になった。 「おまえさ、もしかしてかなりマジ?」  笑ってそう言うと、安藤は目に涙をうっすら浮かべて、顔を上げた。 「……っ」  八年間ずっと一緒にいるのに、こんな安藤ははじめてだった。泣くくらい本気なのだろうか。  雄馬はどうしていいかわからず、安藤の視線に気付かない振りをして続ける。 「あ……はは……。どんな子なんだよ? オレも知ってる女の子?」  そう言うと、安藤は一瞬だけ目を見開くと、少し冷静さを取り戻し、コクンと首を縦に振った。
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