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「そっか。じゃあ俺たちはこっちだから。今日は誘ってくれてありがとな!」 「安藤、香奈美さんに電話してあげて。この前会ったとき元気がなかったから……」  どうにか自分と安藤だけの話題がないものかと探して、やっと思いついたのが、安藤の姉である香奈美の話題だ。そうだ。古瀬は、香奈美に会ったことがないのだ。安藤は笑顔で「わかった!」と言った。  二人と別れ、雄馬は一人その場に取り残される。  本当に今日の自分は何だったんだろう。この寒い中、三時間近くも安藤を待って、結局話なんて全然出来なくて……おまけに古瀬に嫉妬していることにも気付いてしまった。  安藤を見て思ったけれど、自分と連絡を取っていなかった期間、本当に寂しがっていたのだろうか。もう、考えたくない。なにも。  心の中でそうつぶやき、雄馬は自分のアパートに戻ることにした。  とりあえずしばらくは自分から安藤に連絡取るのはやめよう。そうすれば、古瀬に嫉妬するこの気持ちも消えるかもしれない。  しかし雄馬がそう決心したその二日後の夕方、さっそく安藤から「夜飯、一緒に食おう」と連絡があった。  本当は嫌だったけれど、古瀬がついてこないことを期待して、約束してしまった。  だが、またしても古瀬はついてきた。いや、むしろこの二人のデートに自分がついてきたと言うべきなのかーー。  沈む気持ちを押し殺しながら、その日は前に比べて会話に参加しようと頑張ってみた。こちらから話そうとしなければ、安藤としゃべることはできないのだから。  そしてこの日を境に、安藤は三人で行動したがるようになった。雄馬が古瀬とうまくやっていけそうに見えたのか、三人でいる時の安藤はかわいそうになるくらい、一人楽しそうだった。  そんな安藤の隣で、古瀬は相変わらず申し訳なさそうな表情でいるけれど、きっと自分よりは楽しんでいるのだろう。  雄馬といえば、古瀬に対する嫉妬心が当然消える訳もなく、嫉妬心を隠すために、いつも無理矢理テンションを上げていた。  そして今夜もまた、そうだった。
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