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「えー誰だよー?」  自分と安藤の共通の女友達を必死に思い出す。雄馬と安藤は同じ大学だが、雄馬は経営学部だし、安藤は生命科学部ーーつまり文系と理系で全く違う。学部関係で共通の知人などいない。  また二人の通っていた中高一貫校は男子校だったし、一緒に講師としてバイトしている個別塾のバイト仲間の女性達には、皆彼氏がいると聞いた。  二人の共通の知人がいそうな場は、残るは大学のサークルだけである。二人はテニスサークルに所属している。サークル内には共通の女友達や女の先輩後輩がいる。  雄馬はピンときて、断言した。 「サークルにいるんだろ」 「あ、ああ……そうだよ」  誰かの好きな人をこんな風に探るというのは小学生以来である。なんだかおもしろくなってきた。 「美幸ちゃん? かなちゃん? 坂下さん? 野本? 優希先輩? はるか先輩? あとは……」 「はるか先輩はこの間彼氏出来たって言ってただろ」  安藤は少し笑いながら言った。 「あ、そうだったっけ。まあいいけど……。じゃあさ、マジで誰なんだよ。いい加減教えろよ」  話題を戻すと、安藤は再びうつむいてしまった。 「おまえ……彼氏いる人に手出したとかじゃないだろーな?」  そう言うと、安藤は身を乗り出して「それは違う」と否定した。 「あっそ。……あのさぁ、言う気がないならなんでわざわざ話があるとか言って呼び出してきたんだよ。オレ、実家帰る準備しなきゃいけないんですけど」  後頭部を掻きながら愚痴を溢す。 「ふ、古瀬なんだ……」  突然、安藤はそれまで頑なに閉ざしていた口を開いた。 「は? 古瀬? 古瀬ってサークルにいる一年の古瀬優馬? なんであいつが出てくんの」  古瀬優馬(ふるせゆうま)というのは、二人が所属しているテニスサークルの後輩だ。雄馬と同じ名前だが、漢字も性格も正反対なのでサークル内でもよくネタにされている。  正直雄馬は、古瀬のことがあまり好きではない。何故かと聞かれるとはっきりとは答えられないが、いつも騒がしい雄馬にとって、いつも穏やかな古瀬は生理的に受けつけられないタイプなのだ。
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