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そんな古瀬の名前が急に出てきたことに少し戸惑いながらも、安藤にもう一度聞こうとした瞬間、安藤の衝撃的な言葉によって遮られたのだった。
「古瀬と、付き合うことになった」
安藤の言葉を理解するのに暫し時間を要した。やっと出てきた言葉といえば「え"」という、なんとも失礼なものだった。
「まじ……ちょっ、ええ……!? おま、何言ってんの? お、男だぞ……?」
安藤は答えない。自分が一番よくわかっている、と言いたさげである。
雄馬は口元に手を当て、「まじかよ……」と繰り返しつぶやいた。
「やっぱ気持ち悪いよな。こんな話してごめん。ほんとごめんな……」
安藤は目を隠すように額のところで指を組んだ。まるで神の前で罪を懺悔している罪人のようだ。そんな風に謝る安藤が痛々しい。
たしかに衝撃的だったけれど、安藤が謝る必要はないと思った。こういう時に、なんて言えばいいのかわからない。だが、一つだけ確かなのは、それを聞いたところで、自分は安藤を気持ち悪いとは思わなかったということだ。それはちゃんと伝えなければならない。
ずっと頭を上げようとしない安藤に言葉を選びながら、雄馬は話す。
「あー……オレ、正直今かなり驚いたってゆーか、引いたってゆーか……。なんて言ったらいいかわかんないけど……」
「引いた」という言葉はまずかったかな、と思ったけれど、落ち着いて自分の話を聞こうとする安藤は、どんな言葉も受け止めるだけの覚悟はついているように見えた。
雄馬はさらに続ける。
「でも、別にそれ聞いておまえのこと気持ち悪いだなんて思わなかったし……」
そう言ってみたものの、どう続けばいいのかわからず、黙ることしかできなかった。
長い沈黙のあと、安藤が泣きそうな声で言う。
「友達……やめないでくれるか……?」
「は? なんでやめんの?」
雄馬の顔を見て、安藤が久しぶりに笑顔を見せてくれた。
「なに笑ってんだよ」
「いや、おまえいいやつだな……って思ってさ」
普段互いに誉め合ったりすることなど一切無いので、ちょっと恥ずかしくなる。
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