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***  自転車を押しながら歩く安藤の隣に並んで、雄馬もそれに合わせて歩く。新年を迎える季節だけあって、外はとても寒い。マフラーに顔をうずめて温もりを得ようとすると、鼻の穴に繊維が侵入してきてくしゃみが出そうになった。  本当は、走って帰りたかった。寒さから解放されたかったし、先程の衝撃を早く一人になって整理したいというのも、まぎれもない事実だったからである。  だが、ここで走って帰ってしまったら絶対に安藤を傷付けてしまう。  長年一緒にいてふざけ合ったり冗談で罵り合ったりしたけれど、互いに度を越すと本当に嫌な思いをすることが何度かあった。そんなことを何度か繰り返すうちに、雄馬は安藤が傷付く限度が感覚的にわかるようになった。  けれど、さすがに今回ばかりはわからない。  いろいろ聞きたいが、何を言っても安藤に嫌な思いをさせてしまうのではないかと思う。親友なのに少し遠く感じる。  自分の親友は今、男と付き合っているのだ。  部屋を出てからずっと黙りっぱなしの雄馬が気になったのか、安藤が声をかけてきた。 「今日はありがとな」 「べ、べつに」  おまえのことを考えていたんじゃない、という思いを込めて、ぶっきらぼうに答える。 「い、いつからそういう関係になったんだよ。古瀬と……」  寒さのせいで震えているはずの声は、安藤にどう思わせてしまったのだろう。些細なことが気になってしまう。 「この前さ、健吾先輩にゲイバー連れていってもらったろ?」  安藤にそう言われ、一ヶ月前にサークルのOBに、酔った勢いでゲイバーに連れていかれたことを思い出した。そしてハッとする。 「まさか安藤おまえ! あのときあっちに目覚めたのか!?」  雄馬は酔い潰れて途中から記憶がなかった。その隙に親友が男に目覚めたのかと思うと、つい今の今まで傷つけまいと頑張っていた自分も忘れてしまった。 「ぶはっ!」  突然、安藤が吹き出した。自転車のイスをバシバシと叩きながら笑っている。
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