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「いやー寺尾さぁ、そんなこと言った相手が俺じゃなかったら、確実にぶちギレられてたぞ」
お腹を抱えてうっすら涙を浮かべて、安藤は言った。
「悪かったな。でも別におまえ以外にそんな言い方しねーよ」
安藤だから、失礼な言い方でも大丈夫だと、頭の片隅にあったのかもしれない。安藤だから……。
「そんな気にすんなって。下手に気を遣われるよりそういう方がよっぽど楽だし」
「だれがおまえなんかに気なんて遣うかよ」
「それもそっか」
「で? ゲイバーでどうしたって?」
「そうだった。あのときさ、おまえも健吾先輩もベロベロに酔っぱらってたから知らないだろうけど、実は古瀬もあのバーにいたんだよ、男と」
「え、マジ? 知らんかった。古瀬ってホモだったのか……」
「ホモは差別用語だからあんまり使わないであげてくれよ。でもまあ……ゲイだよ」
「ゲイねえ……言われてみればわからないでもない、かも……」
前からやたら線が細いやつだとは思っていたが、ゲイだとは思ってもみなかった。
「で、その時はちらっと目が合っただけで何もなかったんだけど、その何日か後に告られたんだよ」
「なんでいきなりそうなんだよ」
「なんか、前から俺のことがその……好き、だったらしい。でもまぁ、オレもゲイバーであいつ見たときからなんとなく気になってたから、それに……」
それまでよく喋っていた安藤が押し黙る。
急な沈黙を不思議に思い横目でちらりと見ると、安藤の顔は少し赤らんでいた。
「それにな、すっげー可愛い目してるんだ。あいつ……」
安藤は古瀬のことを想いながら話しているのだろうか、雄馬が今までに見たことのない表情をしている。
さっきまであれほど古瀬とのことを話すのを拒んでいた男と同一人物とは思えなかった。
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