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怪奇氷
陽光に照らされ銀色に輝く、パウダースノー。粉雪が舞う中描かれた、一筋のシュプール。
東京から、北海道の小さな町へ転勤となり、始めて迎える冬。十代の頃に行って以来、約二十年ぶりにスキーを楽しむ事になるとは、思ってもみなかった。
生まれてこの方、青春時代も社会人生活も、ずっと過ごしてきた東京を離れる事が、嫌で嫌で仕方が無かった。それが今では、すっかり北海道での生活に慣れ、一人でレジャーに出掛ける余裕が生まれた。
「――よし、次はこっちのコースへ行ってみよう」
初心者コースにも大分慣れた私は、二股に分かれている道で、始めて上級者コースへスキー板の先端を向けた。
雪を被った白樺が、急斜面の道なりに生えている。確かに上級者コースは、これまでのコースに比べて道幅も狭く、かなり急な坂が続いている。
「安全第一。人も全然いないし、ゆっくり滑って行こう」
両脚の内側に力を込め、半円を描くように大きな弧を描く。
方向転換し、ストックを斜面に突いた時――、
「うわあああ!」
スキー板のエッヂ部分にストックが接触し、一気にバランスが崩れる。スキー板が足に付いたまま急斜面を転がり、白樺が茂っている林の方へ身体を持って行かれた。
パニック状態になりながらも、まだ右手にもっていたストックを新雪に突き刺し、滑り続けていた身体を何とか停止させた。
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