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……声を掛けてきた主は考えなくとも解る。
その声は 少し焦りの色が窺えた。
いつもは無感情な抑揚の無い声なのに……
……どう して……?
振り向いたら予想通りの人物が其処に居た。
少し、息を切らしながら立っていた。私を追いかけて 走って来てくれた様子だった。
二人は向き合いながらも少しの沈黙。
痺れを切らして やっと口を開いたのは私の方であった。
「……どうして……?ソウマくん……。なんで 私の事なんか追いかけてきたの?私はこれから警察署へ向かうの、知っているでしょ?バレてしまえば貴方まで危なくなる…。……でも、幸いな事に貴方はまだ バレていない。貴方は逃げて……、そして 生きて……っ」
懇願する様にソウマの両腕に縋りながら崩れ落ちる哀歌。
ソウマが重い口を開く…
「社長が言っていた通り、うちなら君の事を隠し通せる…。君の事を守れるんだ…っ!…なら…、如何して残り少ない命を大切にしない?君は一体何の為に生まれてきた?…生涯、こんな辛い目に遭う為じゃ無いだろうっ!?少しは楽しんだって良いじゃないかっ!社長は君の意見を尊重して行かせたけれど…、俺は、俺は…っ、納得しない…っ、君のパートナーとして……」
こんなに大きな声を出して態度を乱す彼の姿を初めて見た哀歌は驚愕した…。
…言葉には出さなかったけれど…、やっぱりソウマくんは優しかった…。
ソウマくんの言葉に涙が 取り留めもなく 溢れ出ては地面に滴り落ちる。
この時 哀歌は気づいてしまった……。
出逢いは突然・一緒にしてきた行動だって恋愛とは程遠い・彼は口数だって少ないから、まともに会話した事は数える程度…・彼の事は名前しか知らない・私と彼は依頼だけで結ばれた関係……、
…しかし、彼はいつでも真剣に私に向き合ってくれた、私を守ってくれた……
出逢ってからの期間は短かったけれど……、
私は 彼の事が、 ソウマくんの事が……、 好きなのだと……。
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