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◆◇◆◇◆
使う路線は違ったものの、終電の時間は二人とも同じようなものだった。
それぞれの駅に余裕で間に合うように時計を確認して一緒に店を出て来た僕らは、
少しずつゆっくりになってゆく足取りを、
ブランコのある小さな児童公園の入り口で完全に止めた。
――まだ少し時間があるから。
…口に出して言うわけでもなく、お互いにそんな顔をして納得し合う。
住宅地の中ではなく繁華街の駅近くにある児童公園は、
月明かりに照らされた姿が何となく気取っていて。
大人の雰囲気のバーで二人してオレンジジュースを飲んでいた僕らとダブって見えて、
何となく可笑しかった。
「へぇ、若い波って書いて『わかば』か。
なんか、ぽいな」
「ぽいかな…? はじめて言われたけど」
「良い名前じゃん。可能性に溢れてるって感じだ」
「何でもいいから褒めればいいと思ってないか?」
「まぁたそうやって言う」
夏の訪れそのもののように僕の前に現れたその人は、
夏が来たと書いて《夏来(なつき)》などという出来すぎた名を名乗った。
僕は本名を言ったけれど、彼の方はどうだかわからない。
「さて…それじゃ、これで解散かな」
公園への礼儀を果たすためにブランコを揺らしていた彼は、
それだけ言うとトンと軽い音で着地して、
低い鉄製の柵に寄りかかっている僕を振り返った。
「……」
「アンタ、ガード固そうだもんな。
下手にこの後まで誘って嫌われて終わりたくないし。
またどこかで会えたらいいな。それじゃ――」
そう言って軽く片手を上げると、簡単に立ち去ってしまおうとする。
当然僕も、同じようにするはずだった。
――なのに、
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