ep.1 『Barにて』

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「待って」 「…ん?」 「そんなことないよ」 「…」 え…? あれ、何を言っているんだ僕は……? 「本当は、昨日今日会ったばかりのような人とは、  連絡先を交換したりもしないし、また会おうともしないし、  用が済んだらすぐに帰ろうと思うけど……  君だったら……夏来だったら、話は別だ」 言葉が勝手に口から飛び出してくるような感覚だった。 頭で考えるよりも先に、衝動が僕を喋らせていた。 ――嘘みたいだ。 こんなに自然に他人を受け容れて、 それどころか、離れていくのを掴まえようとしているなんて。 自分が自分じゃないみたいで、今更パニックがやって来て、視界がぐにゃっとした時。 彼の――夏来の視線がしっかりと僕をとらえたから、すぐに焦点が定まった。 「本当に?」 「――うん」 「…じゃあ――行ってもいいの?」 「……うん」 「…じゃあ、その前に……  ――キスしてもいい?」 「……  うん」 そうか、やっぱり、と思った。 初めて視線が合ったとき、少しだけ時間が止まったのは、 その瞬間にもう、彼に恋をしてしまっていたからだったんだ、と――。
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