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「待って」
「…ん?」
「そんなことないよ」
「…」
え…? あれ、何を言っているんだ僕は……?
「本当は、昨日今日会ったばかりのような人とは、
連絡先を交換したりもしないし、また会おうともしないし、
用が済んだらすぐに帰ろうと思うけど……
君だったら……夏来だったら、話は別だ」
言葉が勝手に口から飛び出してくるような感覚だった。
頭で考えるよりも先に、衝動が僕を喋らせていた。
――嘘みたいだ。
こんなに自然に他人を受け容れて、
それどころか、離れていくのを掴まえようとしているなんて。
自分が自分じゃないみたいで、今更パニックがやって来て、視界がぐにゃっとした時。
彼の――夏来の視線がしっかりと僕をとらえたから、すぐに焦点が定まった。
「本当に?」
「――うん」
「…じゃあ――行ってもいいの?」
「……うん」
「…じゃあ、その前に……
――キスしてもいい?」
「……
うん」
そうか、やっぱり、と思った。
初めて視線が合ったとき、少しだけ時間が止まったのは、
その瞬間にもう、彼に恋をしてしまっていたからだったんだ、と――。
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