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アットホームさを重視して選んだその店は、とても狭い店だった。
カウンター席の後ろはすぐ壁になっていて、
座っている人が少しでも椅子を引っ込めるなど協力してくれなければ、
人1人通るのも難しい。
初来店の顔ぶれが集まっているらしい席はその一番奥。
距離でいえば目と鼻の先だというのに、
この距離を進むのがなかなかに厄介だった。
「すみません、後ろ通ります…」
状況に気づいていないらしきカウンター席の客に、
小さい声で道を空けてくれるよう促す。
情けないことだが、僕にとってはこれだけだって勇気のいる行動だった。
「(………
…?)」
しかし、カウンター席に座るその男は、退いてくれるどころか顔を上げもしない。
声が小さ過ぎて聞こえなかったのだろうか…?
仕方がないのでもう一度同じ台詞を言ってみる。
「すみません、後ろ通ります」
少しボリュームを上げてやった。今度は聞こえているはずなのだが……
「(???)」
それでも男は動かない。
なぜ?
「(わざとなのか…?)」
聞こえていないはずがない。じゃあなぜ動かない?
これは新参者の僕を馬鹿にしてからかっているのだろうか。
そう思ってしまうと、見知らぬ人に対する緊張よりも上回って腹が立ってしまう。
悪い癖だと思うが仕方がない。
今度は強い口調で言ってやる。
「聞こえてるんでしょう? どいてって言ってるんです」
すると……
「嫌だね」
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