ep.1 『Barにて』

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「………」 「ん?」 見ず知らずの彼が見ず知らずの僕へ向けた、屈託のないその眼差しが、 これまで出会ったどんなに親しい人たちよりも、 一番透明で、一番眩しかったから――。 「………」 「もしもーし?  なに、怒っちゃった?」 「……  …! あ、いや…その……」 そこで、今まで他の客たちと談笑を楽しんでいた店員がこちらへやって来た。 一連の流れを見ていなかった店員は、 僕が今居るこの席に落ち着いたものだと思い込み、 慣れた笑顔で今更メニューを差し出してきた。 先ほど初心者の集まる場所を教えてくれたのはこの人なのに、 僕がここに座ることに疑問はないのか? 「……いや…僕、こういうところ初めてで…  不安だし…最初は同じ初心者の人と話したくて……」 「あぁ、それはちょうどよかったな。  俺も初めてなんだ」 「うそつけ」 あ、しまった。知らない人に「うそつけ」はダメだろ…。 「あっはは。意外と言う人?」 「…すみません。……つい反射的に」 「アハハ、そりゃいいや。  俺そういうコ、好きだなぁ」 ……… 「…僕やっぱり初心者の方にっ――」 「あ~ちょっと、待って待って。  俺もホントに初めて来たんだって」 「でも、普通に常連っぽい人たちと盛り上がってなかったですか?」
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