オルター・洋子「龍平洋漂流記」より 第6章 水底の天使たち

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 話は戻るが、芯がそっぽを向いてる男。もう一人の例として「恋のマドリ」でガッキーにとっては夢の男であるタカシも、芯のところはやはり女の方を向いていない「樹木オタク」だ。そこがひっかかって菊池凛子はタカシから離れてみたのかもしれない。 つまり、馬締もタカシも「女の手に負えない男」である。 「船を編む」とか「恋のマドリ」とか恋愛映画でもそんな調子なんだから、そのほかの映画で松田龍平の演じる男が、生身の女と恋愛するなんて想像すらできない。(私は「カルテット」をまだ見ていない)  行天「まほろ駅前便利軒」なんか電気炊飯器に恋する方が、美女に惚れちゃうより説得力ある。高田「探偵バー」が、一体どんな女とどんな恋愛するっていうの?きっと綺麗な目のメス牛に惚れこむ。変態的な感じじゃなくて、オシラサマ伝説的な感じで。(いや、わからないぞ)  つまり松田龍平演じるキャラクターに正面から向き合うことが許されるのは男だけ。だから女にとってどんなにかっこよくてセクシーでも、絶対手に入らない「絵に描いた餅」なの。  さて昨日「羊の木」を観てきた。 もう、「絵にかいた餅」どころの騒ぎじゃない。 誰の手も届きゃしないんである。 とうとう、男も彼と対峙できなくなった。  錦戸亮という人が演じているのを私はこの映画で初めてちゃんと見たけど、かなり素敵な(龍平にお似合いの)男だったけど、でも無理だった。 感情のやり取りができないもの。 松田は異形の域に足を踏み入れてしまったんである。  私は毎朝近くの神社まで散歩するんだけど、そこは結構由緒ある古社で、参道の入り口に1635年に建てられた石の鳥居が立っている。 つまりその鳥居はそこに、かれこれ400年立っている。 普通の住宅地の中にまぎれて黙ってただ立っているんである。400年間。 今朝、その鳥居を見て、私は涙が出てきた。なぜか。 「羊の木」で松田が演じた宮腰一郎を思い出したから。 昨日の今日で、心の整理がまだつかない。
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