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電話で求人を断られたあと朔郎は暑い陽射しが残る夕暮れの御堂筋を歩いた。綾子との待ち合わせ場所である心斎橋に向かって歩いた。
以前は会社のあるビルに向かってひたすら歩いた。同じ道を今日は定まらぬ歩幅で歩き続けた。行き交う人々にすれば彼の歩幅は歩道での人の流れを乱していた。
「俺は十七年間、何の為にこの道を歩き続けていたのか・・・」
ぼやき続ける朔郎の前にヨレヨレの普段着の五十絡みの男が眼に止まった。彼は自転車の荷台に寄り掛かりくわえ煙草のまま新聞を読んでいた。
「何して喰ってるんだろう?」
仕事を辞めてからの朔郎は暇な人を見つけると口癖の様に浮かんで来る言葉だった。その時に同じ様な視線に気付いた。
「生気のない人ね」
視線の先に立っていた綾子が笑いながら言った。
「まあ仕方ないわね、ずっと部屋に居ればたまにはお陽さんに当たらないと葉も萎れるから」
「俺は観葉植物か」
朔郎は肩を並べて歩き出した綾子に向かって愚痴を溢した。
「仕事、探してるの?」
綾子は世話焼きな方である。だがそれも三十女だと疎ましく感じる事が多分にあった朔郎もそう思った。その考えは送別会で悪酔いしてから彼女も悪くない、いや望ましいと気持ちが一変した。
「探してるよ」
成り行きで答えた。
「合うのがないの?」
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